
いなば食品株式会社は、缶詰やレトルト食品、ペットフードなどを製造・販売している老舗の食品メーカーです。
いなばペットフード株式会社など多数のグループ企業を展開し、日本国内のみならず、アジアや欧州、中南米、中東・アフリカにも多くの製造・販売拠点を構えています。
2025年度通期のグループ連結売上高は2,000億円に迫る勢いで、営業利益とともに過去最高を更新する見込みです。
いなば食品は破竹の勢いでグローバル戦略を加速させていますが、経営上の課題や死角は存在しないのでしょうか?
本稿では、いなば食品の事業の内容や会社を取り巻く環境などを深掘りし、経営の実態や見通しに迫ります。
始まりは海産物業
いなば食品は江戸時代後期の1805年(文化2年)、初代・稲葉与吉が静岡由比の地で海産物業を営む「いなば商店」を興したことに始まります。
その後、かつお節生産を事業化し、昭和の初めまでには販路を全国に広げました。
幕末から明治にかけては生蜜柑を木箱に詰め、東北や北陸、さらには北米向けの海外輸出にも乗り出しています。
1936年には、かつお冷凍庫の建設予定地に缶詰工場を建設。戦後の1948年には、いなば食品の前身である「稲葉食品株式会社」が設立されました。
1971年に発売した「いなばライトツナ」は、冷凍輸出や生食が主流だったキハダマグロを缶詰にした革新的な製品で、ツナ缶業界に大きなイノベーションを及ぼしました。
1958年にペットフード事業へ参入
いなば食品は戦前に缶詰生産を開始し、1948年には旧農林省主催の品評展示会で、まぐろ油漬缶詰2点が大臣賞を受賞しています。
1950年代に入ると、まぐろ缶詰の輸出も好調となり、いなば食品は缶詰事業の足場を固めていきます。
しかし、輸出全盛期の1950年代において、いなば食品はもう一つの事業を開始しています。それが、1958年にスタートした日本初のペットフード事業で、製品は主に北米やイタリアに輸出されました。
なぜペットフード事業を選んだのか?
いなば食品は、缶詰事業と並行してペットフード事業を立ち上げました。しかし、事業内容の多角化において、なぜペットフード事業を選んだのか不思議に思う方もいるかもしれません。
しかし、いなば食品のペットフードには、長年にわたる缶詰生産で培ってきた技術力と品質管理のノウハウが応用されています。
例えば、猫用おやつ「CIAO ちゅ~る」の最大の特徴であるペースト状の滑らかな食感は、まぐろやかつおの加工技術がベースです。
いなば食品が缶詰事業と親和性が高く、世界的な市場拡大も見込めたペットフード事業に参入したのは、食品メーカーとして至極当然の流れだったように思えます。
激戦市場で勝てた理由
いなば食品のグループ会社である「いなばペットフード株式会社」が展開するペットフード販売は、2019年に国内首位へと躍り出ました。
ペットフードのメーカーは無数にある中、いなば食品が激戦の市場で勝てた理由は何だったのでしょうか?
高度な品質管理
いなば食品はペットフードに対しても、人間用食品の法規である「食品衛生法」の基準に基づく製造管理を行っています。
その理由は、いなば食品は創業以来、すべてのフードでの化学物質の無添加、無着色、保存料・殺菌剤一切なしを徹底し、「天然・自然・本物」を一貫して貫いてきたことにあります。
1936年の缶詰生産開始から継続してきた長い缶詰殺菌製造の経験とその基盤は、ペットフードにも食品衛生法の衛生基準を達成させるという考え方の原点となっており、それが「愛猫に最高のものを与えたい」と願うペットオーナーからの強い信頼に結び付いています。
独創的な価値観の創出
2012年に登場した「CIAO ちゅ~る」は、まぐろやかつお、鶏ささみなどをペースト状にした国内初の液状タイプの猫のおやつで、国内外で大ヒットしています。
使い切りサイズの細長いパウチから「ちゅ~っ」と手を汚さずに絞り出せるおやつは利便性が高く、それまで存在しなかった画期的な製品でした。
さらに、「CIAO ちゅ~る」は「飼い主とペットのコミュニケーションを楽しむ」という独創的な価値観を創出しました。
ペットを「家族の一員」と考える現代の飼い主の想いに応える価値観を創出し、それを体現できる製品を開発したことが、ペットフードの国内売上No.1の原動力となりました。
他社製品との徹底した差別化
いなば食品のペットフードは、さまざまな側面で他社製品との差別化が図られています。
例えば、近年におけるペットの健康志向の高まりを敏感にキャッチし、犬や猫の健康に配慮した製品のラインナップを充実させています。
「総合栄養食」を謳う製品や腎臓の健康維持に役立つ成分を配合した製品などが豊富で、おいしさや食品素材の良さと両立させていることが特徴です。
また、TVCMを中心とした潤沢なプロモーション活動も群を抜いています。
CMソングが印象的な「CIAO ちゅ~る」などのTVCMは、ユーザーの愛犬や愛猫が製品の中身を夢中でなめる仕草などの映像を効果的に用い、「我が家のペットも喜びそうな製品」と思わせる効果があります。
ユーザーからも絶賛の声
いなば食品のペットフードは、ユーザーからの評判もかなり良好です。
製品を愛用しているペットオーナーからは、以下のような口コミが寄せられています。
便秘も解消しつつあり助かりました
初めて買いました、食べてくれるか心配でしたが美味しいらしく良く食べてもすぐに無くなり少し追加しています。便秘もしていたのでその事も解消しつつあり助かりました。また購入したいと思います、感謝です。
参照元
キャットフードを購入した飼い主の投稿です。
喜んで食べているだけでなく、便秘解消の効果も見られたとのことで、愛猫が元気になったことに安どしている様子が伝わります。
いなばの野菜入りが気に入っている
ドライのドッグフードを食べないので、いつもウエットフードを購入します。いなばの野菜入りが気に入って食べてくれるので購入させていただきました。
参照元
こちらはドッグフードの口コミです。
愛犬は、いなばブランドの野菜入りフードが気に入っているようで、自社製品の固定ユーザーをしっかりつかんでいることがわかります。
すべての猫が好物
ペットのおやつ常備品として活用させてもらっています。すべての猫が好物なので、常にストックしています。
参照元
「CIAO ちゅ~る」バラエティセット160本入りのユーザーからの口コミです。
多頭飼いであることがうかがえますが、「CIAO ちゅ~る」を家庭に常備しているという猫の飼い主は多いのではないでしょうか?
社員も評価する自社のペットフード事業の強み
いなば食品グループの社員自身は、自社のペットフード事業の強みをどう捉えているのでしょうか?
転職サイトに投稿された口コミ評判には、ブランド力や品質、ステークホルダーからの信頼度などの高さを評価する意見が書き込まれています。
圧倒的なブランド力と品質、豊富なラインナップ
事業の強み:CMで有名な「CIAO ちゅ~る」をはじめ、圧倒的なブランド力と品質、豊富なラインナップが強み。
特に品質は他社と比べても顕著で業界No.1といえる。また半年に一回新商品が出るため、他社に比べ広く提案でき採用されるチャンスも多い。
参照元
ブランド力と品質、豊富なラインナップは他社の追随を許さないようです。
小売店で取り扱われるチャンスが多くなれば売上増につながり、それがブランド力や開発力の向上にも反映されるサイクルが生まれているように思えます。
取引先・消費者からの信頼度はかなり高い
強み:ペット業界首位企業として、取引先・消費者からの信頼度はかなり高かったと感じている。新商品であっても、いなばさんが言うならと商談はしやすい環境であった。
参照元
取引先・消費者からの信頼度の高さを実感したとの口コミで、それが商談のしやすさに結び付いているとのことです。
ペット業界首位企業としての強みが、マーケットの隅々まで浸透していることがわかります。
まとめ
いなば食品は、2034年に連結売上高1兆円の達成を目標とする長期ビジョンを策定しています。
主力のペットフード事業は世界のトップ3を目指し、海外市場への投資をさらに強化していく方針です。
世界のペットフード市場は拡大が続いており、欧米やアジア地域ではペットの健康に配慮したプレミアム商品のニーズも高まっています。
このような状況を踏まえ、いなばペットフードは今後のグローバル事業戦略の一環として、海外営業拠点を2029年度までに120ヶ所へとほぼ倍増させるとともに、海外営業社員は1,500名体制へ大幅に強化する考えです。
2027年12月には、いなばペットフードのタイ第5工場が完成する予定で、アジア有数の生産拠点であるタイにおいてグローバルな安定供給と高品質な製品提供が実現すれば、これまで以上にグローバル需要を取り込むことが可能となります。
国内No.1から世界No.1を目指す「いなば」のペットフード事業のこれからに、ぜひとも注目していきましょう。